彦六すし 阪急六甲

ひころくすし はんきゅうろっこう

予算
~8000円
~3000円
最寄駅
阪急神戸本線 / 六甲駅 徒歩3分(190m)
ジャンル
寿司
078-851-7555

【 神戸の残り香 】 ふと後ろを見ると、成田一徹の描いた彦六すしの原画がある。右のコンクリートブロックのところは地震の前は石垣だったのよ、とお母さんが言う。 震災後、神戸新聞に神戸の残り香というシリーズとして掲載されたものである。阪急六甲の駅近くにあって、まるで隠されたようにひっそりと、そのお店はある。入り口までの数段の石段を降りている間に、まるで何十年も時間が巻き戻されてしまったように感じる。 創業当時から頑なに、薪釜でシャリを焚いている。70年になるその歴史は三代目となり、母と息子の二人が切り盛りしている。シャリは私しか炊けないと、お母さんは言う。経験でしか薪釜でしっかりコメを炊けない。気温、加水率、湿度、コメの状態、火力。 実は私の会社の近所にも昔、薪釜でご飯を炊く店があった。当然大変な繁盛店だったが、ある日突然閉店してしまった。薪釜でご飯を炊いていたのはかなり年配の男性で、彼しかコメを炊ききれなかったのだろう。 カウンターに6席、奥に座敷がある。予約は座敷だったがちょうど先のお客さんが帰られたところで、カウンターに通していただいた。目の前にある立派なお花は、お母さんが生けているそうだ。 暑い夏の夜だ。ビールで喉を潤しながらさて、何を頼もうかと思っていると隣の、とても上品な年配のご夫婦があれやこれやと指南してくれた。聞けば、もう35年来通う常連だそうだ。 盛り合わせ1800円を頼んで、あとはお好みにしてもらう事にした。美しく盛られた寿司は、驚くほど美味かった。本当に、驚くほど美味かった。口に入れると自然と目を瞑って味に集中してしまうお寿司だった。 現代的なお寿司ではない。いかにも緩く軽く握られたお寿司ではないが。目が覚めるような思いがするのが、お寿司に対する軸が全く違うところにあって、とにかくハッとさせられるほど美味いのだ。 ぱっと見た目はネタが少し大きすぎるように見えたのだが、そこには意図があった。シャリは小さめに握られているが、その握りの圧と、薪釜で炊かれたコメとのバランスが、全く軸の違う考え方の中に存在している。ハッとするほど、見事にバランスが取れている。 ネタも素晴らしい。特に盛り合わせのタイはハリとコシのあるタイプではなくて、甘みたっぷりで旨味で口どけする珍しいものだった、きっと何か仕事をしているのだと思う。特にタイは握りのバランスを取るのがとても難しいと思っているのだが、目を瞑って食べるとこれは、鯛とはわからないだろうなと思った。 海老もいい。しっかりとした技術の高さを感じさせる。そして、盛り合わせにした理由がこの、太巻きだ。感動的に緩く巻かれたそれは、今まで人生の中で食べたあらゆる太巻きの中で一番美味かった。いや、それはバッテラもそうかもしれない。こんな美味いバッテラが、あったか。いや、それはきずしもそうだった。もうずっと、きずしでいいよ。という、絶妙にわずかに締められた鯖。 今の季節だけの昼網の鯖も、鯖と言われなければそれとわからないだろう。凄まじいハリのむっちりとした夏鯖だ。シャリとの相性が悪いほどの弾力。 ふっくらとして甘い穴子。そして最後に見事な穴きゅうの巻物。いい海苔を使ってるんだと思う。 冷酒は瀧鯉の大吟醸。お店は他のお客さんは引けて、ゆっくりとその歴史を伺いながら、静かに、本当に豊かな時間が流れてゆく。創業当時は寿司加工業、コメが配給制のためそれをお寿司にするという業態だったのだそうだ。無論、それでは寿司は作れないので、闇米が流通していたらしい。砂糖はなかった、モンサントって調味料があってね、お酢はあったよ。そういった寿司の歴史があって、現在の江戸前につながっているという事。 思えば、私が初めてお寿司を食べた記憶はお葬式だったか、家の手巻き寿司だったか、それともチェーン展開するお持ち帰りの寿司だったか。 今よりもずっと、寿司はハレの食べ物でその文字通りコトブキであったのだ。 本当に価値があるお店で、本当はベストをつけたいが常連様のお席を奪う事にわずかでも加担するのも心苦しい。アベレージをつけてもいいが、それにはあまりに素晴らしすぎる。 ただ、歴史を重ねただけではなくて、六甲山手の裕福な、舌の肥えた人たちに支持される素晴らしいお寿司だ。握りだけではなく、押し寿司や、巻き寿司が本当に素晴らしい。 夜のレビューがなぜか少ないのだが、昼も夜も同じ値段。ゆっくりと、優しいお母さんの話と、息子さんとの掛け合いを楽しみながら、次はアテからはじめようと思う。お会計は驚くほど安かった。 大正時代に建てられた三軒長屋の真ん中。時代を超えて愛される店、その理由を見つけるのは簡単すぎるほどに隅々までが尊い。

akira iさんの行ったお店

彦六すし 阪急六甲の店舗情報

店舗基本情報 修正依頼

予約・問い合わせ 078-851-7555
ジャンル
  • 寿司
営業時間
定休日
予算
ランチ
~3000円
ディナー
~8000円
クレジットカード
不可

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住所
アクセス
                                        ■駅からのアクセス                        
                阪急神戸本線 / 六甲駅 徒歩3分(190m)
JR東海道本線(神戸線)(大阪~神戸) / 六甲道駅 徒歩10分(740m)
阪神本線 / 新在家駅 徒歩16分(1.2km)                        

                        

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席数

6席

カウンター
個室

078-851-7555