銀座八丁目の並木通りからちょっと入ったビルの地下に唸るほど美味い天ぷら屋がある。 海老は、小振りであるがその甘みと歯切れの良さ、何よりも軽く揚がったコロモの香りにわけもなく首肯くのである。 小玉葱は、独特の甘さが口中に充満し、焦げ目の微かな苦味がアクセントとなってこれまたニンマリとする。 キスで初めて、天つゆの仕事に気が付いた。他店とは出汁の量が違う。味醂の揮発成分が迫ってくる。これだけゴクゴクと飲み干せるかも知れない。キスは産卵を控えた初夏が旬であり、今がその盛りなので目尻が下がった。 椎茸は肉厚で、熱々のところをハフハフと囓ると「シイタケ、シイタケ、シイタケがイッパイ」という言葉がリフレインする。そんなテレビコマーシャルが昔あったなあと思い出したのだ。大将がその産地を教えてくれたが忘れた。 穴子は菜箸で押し付け、ザクリと二つ割にしてくれた。キスと同じく穴子の肉に大きな主張はない。その分、天ぷら屋の技が際立つのである。上に大根おろしを多めに載せ、天つゆにSOAKして口に持っていく。ここでもコロモのワザと天つゆのワザに恐れ入るのである。 金時芋は、しっとりとしてじんわりと甘みが伝わってくる。 仕上げは、海老が多めの掻き揚げであった。 総じて、天つゆが格別、薄めのコロモが軽く、天ダネが良く吟味されているという点で笑顔になった。ついでならがら硬めに炊いたご飯がうまい。 また、来ます。
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