【いいよ作ってあげる】 大正早期に創業の100年食堂。 今日は何を食べようかと迷った末に、冷やしたぬきをお願いしてみた。 お願いしたというのは、メニューに載っていないため。 すると女将は笑顔で「いいよ作ってあげる」と告げて厨房へと戻った。 しばらくして、僕の目の前には丼に汁がたっぷりと張られ、天かすが浮いた蕎麦が供される。 その丼へと手を伸ばすと、ヒヤリと冷たい。 そう、冷たいたぬき蕎麦を作ってくれたのだ。 冷やしたぬき蕎麦というものは、老舗蕎麦屋からするとハイカラな品であったのだろう。 だから、この店には濃いめのつけ汁をぶっかけた冷やしたぬき蕎麦という概念がない。 頓智の効いた逸品に、嬉しくなった福島の夜。