日本酒豊富で美味しい料理いただきました また来たいと思います
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【 千歳の夜 】 友人達より私は1日遅れで帰ることにして、最後の1泊を千歳駅の近くに取った。初めての千歳だし、何を食べようかなあと飲み屋街に繰り出せば、日曜日+蔓延防止期間という事もあって、ありとあらゆる店の暖簾がかかっていなかった。 ヤバ。日曜日、ヤバめ。そうか、それでホテルの下の”増毛!増毛漁港直送、遠藤水産”があんなに早い時間から混雑していたのか、、、これはケツの毛まで生えないぞ。というわけで、時計の針を見ると、17時を少し過ぎていた。そんな選択肢はほとんどない中で、ぽつりと、明かりがついていた。 浦島太郎。竜宮城かよ。 なんとも怪しげで安っぽい屋号である。それは、私だけならず万民の総意をもってして亀の恩返しだとおもうが、逡巡している暇などなかった。流石にGoogleの点とコメントくらいはさらっと確認し、その安っぽい暖簾をくぐった。 ギリギリ、の入店である。すでにカウンターはうまっていて一人席が一つ、余っているだけだった。予想に反して、店主は若い方で、なんとなくメニューを見てもいい感じ、だった。 久々にとりあえず、生ビールを飲みながらしげしげとメニューを眺める。お通しが、クジラベーコンとホッケを炊いたものだった。一口食べて、私は安心してこの店に居座り続け、テコでも動かぬ事に決めた。 厚岸の牡蠣。私が突き止めたその塩分濃度の秘密は、このお店で確信に変わったからだ。海のミルク。厚岸のテロワ。清涼で凍える東の海そのものの味わい。確かに身もうまいのだが、最後のレモン汁と相まった海水とカキの混じり合った汁がとてもうまい。私の中でセンポウシとサロマ湖の牡蠣に続き、厚岸の生牡蠣が心に刻まれた、それはいつか私の、碑銘として心にあるのだろう。 合わせたのは三千櫻、純米大吟醸。ちゃんといい酒も置いてあって、この時点で私の心は(なぜ浦島太郎、などという、ぼやけた屋号なのだろう)という疑念が渦巻いていた。 コーンの天ぷら。”マイス(トウモロコシのこと)なんて豚の餌”と言ったオランダ人がいた。オランダ人の味覚はそんなものだ、その時私たちはイタリアにいて、トウモロコシ畑を見ていた。イタリア人は呆れてものも言えない、お前達は馬の肉もトウモロコシも食わないただの野蛮人だ、と嘆いた。イタリア人と、日本人は、近しい。多分オランダ人は、うまいトウモロコシもトウモロコシの調理の仕方も知らないのだろう。生で食べてうまいものではないが、手をかければ途轍もなく美味い。 焼き物の、サクラマス。なんという甘く膨よかで、隠微な味わいだろうか。ねっとりと在る桃色は誘惑である。キタアカリはホイル焼きにしてもらい、ジャガバタにしてもらった。ああ、このような。素晴らしくシンプルで、かつ素材の力だけで成立してしまうような料理も、今日までか、、、と寂しく思う。 ここまできて、酒もアテも店主に委ねることにした。何故なら、ずっと見てきた手技が素晴らしかったからだ。寿司を握っている所作を見て、なるほど、これなら安心してお任せできるなと思った訳だ。 あんきもと、男山生酛純米酒の熱燗。全国燗酒コンテスト2020にて金賞を取った酒だそうだ。(2021はその限りではないが)実はあんきも。もし勧められてなかったら食べてなかっただろう何故なら、世間のあん肝は熱をかけ過ぎているものが多く、肝のうまさが殺されているものが多いからだ。はたまた、処理が下手で生臭かったり、手間暇かけて丁寧に作る自宅モノ、の方がうまいケースが多いアテ、でもあるだろう。 が。流石である、すばらしいあんきも、が出てきた。実にレアで”肝で在ること”を殊更に主張するタイプの出来である。これほど美味しいあん肝には、おいそれと出会うことができないなと言いながら、熱燗。最高だ。 本来、道内の人を愛にするお店で在るから、ことさらに北海道のものばかりを置いているわけではないだろう。酒もメニューに8種ほど並べられているが、全国のうまい酒のラインナップになっている。そのなかで、次に出てきたのが十勝の純米吟醸腕、合わせたのが菜の花とウド、ワカメの酢味噌だった。 隣の客とも話が弾んだりして、とにかく居心地の良いお店だった、地元の客にも愛されている感じがすごくあって、結構いつも混んでいるようだ。聞けば、この浦島太郎の前にちゃんとした寿司屋があって、それの2号店としてのお店であった。で、雇われからそのまま独立という形で今の大将が引き継いで2年になるのだという。 なるほど、随分寿司の手際が良いなと思いましたよといったらもう包丁握って何十年になりますからね、と若く見える大将は言った。ううまい酒にうまいアテ、そしてどこかほっこりするお店と、良い人たち。旅先でこのようなお店に出会うのは、素晴らしい一節である。