【魚を「熟成」で再構築するフレンチ】
魚料理をここまで徹底して掘り下げたフレンチは珍しい。 サンプリシテの料理の軸は魚介を熟成させることで旨味を引き出し、発酵や燻製、乾燥なども重ねながら、その素材が持つ味を別の角度から見せていくこと。 まず目を奪われたのが、魚介やからすみ、蛸など、熟成・加工された素材そのものを見せるプレゼンテーション。これから食べる料理の「素材と時間」を先に見せられることで、コースへの期待が高まる。 続いて登場する一皿一皿は、魚料理でありながら表情がまったく違う。 蛸、鮪、からすみ、キャビアなどを少量ずつ組み合わせた皿は、塩味、旨味、香り、食感の違いを比較するような面白さ。魚の骨を思わせる繊細なチュイルを使った一皿など、視覚的な演出もかなり印象的だった。 キャビアを惜しげなく使った料理は濃厚だが、単に高級食材を足したという印象ではない。魚介の旨味をさらに押し上げる役割として組み込まれている。 一方、ジュレやハーブを合わせた魚料理には軽やかさがあり、貝殻を器にした一皿では泡状のソースによって磯の香りと旨味を柔らかくまとめる。濃淡の付け方が巧みで、コースが単調にならない。 特に印象に残ったのは、鰆の一皿。身の水分を残した質感と皮目との対比が美しく、ソースや香味を過剰に重ねず、最後は魚そのものの力で食べさせる。 料理だけを切り取ればかなり技巧的。それなのに、食べ手には「難しい料理」として迫ってこないところがサンプリシテらしい。 鮮度の良い魚を活かす引き算の日本料理とは違い、時間を味方につけて魚の可能性を引き出すフレンチ。 華美な高級食材や派手な演出だけで驚かせるのではなく、魚介という一つの領域を深く掘り続けた先に、ここでしか成立しない料理がある。 店名の「Simplicité=簡潔・単純」という言葉とは裏腹に、そのシンプルな皿にたどり着くまでの仕事量は相当なものだろう。 魚好きなら、一度は体験しておきたいレストランだと思う。
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