
心斎橋の喧騒から一歩足を踏み入れると、そこは蕎麦の奥深い世界が広がる静謐な空間。以前から気になっていた「街蕎 仁ト伍」さんへ、食通の知人と共に念願の訪問が叶いました。
コースは16,500円のおまかせ一本。料理に合わせた日本酒ペアリング(3種・5種)も楽しめます。
カウンターに座ると、まず見せていただいたのは2種類の蕎麦の実。「玄そば」と「丸抜き」、そして僅かに芽を出した一粒。このプレゼンテーションだけで、店主の並々ならぬこだわりと蕎麦への愛情が伝わってきます。
珠玉の料理と、個性あふれる3種の蕎麦が織りなす感動のコースの始まりです。
●いただいたお料理
【先付】枝豆
風味豊かな枝豆からスタート。
【茶碗蒸し】鱧と国産松茸
蓋を開ければ芳醇な香り。鴨の身だけを贅沢に使った濃厚な出汁に、ふっくらとした鱧と秋の味覚の王様・松茸が見事に調和します。
【お椀】とらふぐの白子のすり流し
とらふぐの白子そのものをすり流した、贅沢を極めたお椀。のどぐろと鰹の極上出汁と合わさり、口の中でとろけるような旨味と甘みが広がります。
【お造り①】北海道羅臼 天然ブリ
腹と背の食べ比べ。石川県珠洲の伝統製法「揚げ浜式」の塩が、ブリの上質な脂の甘みを最大限に引き立てます。
【お造り②】北海道根室 さんま
今年の格別なさんまを、濃厚な「わた醤油」で。日本酒が進むこと間違いなしの逸品です。
【蕎麦①】熟成蕎麦 埼玉・入間産
まず一杯目は、殻ごと挽いた蕎麦を熟成させ、香りを引き出した力強い一枚。沖縄の天日塩「縁結び」が、蕎麦本来の甘みを際立たせます。
【蕎麦②-1】十割蕎麦 天然きのこと辛味大根のぶっかけ
二杯目は、打ち立てフレッシュな十割蕎麦。十割とは思えない滑らかな喉越しで、天然きのこ(網茸・いぐち茸)の豊かな風味と辛味大根との相性も抜群です。
【蕎麦②-2】十割蕎麦 平打ち
同じ蕎麦を今度は平打ちで。切り方と温度で全く異なる表情を見せる趣向に、店主の技術の高さと遊び心を感じます。
【焼き物】茨城 野口農園「柳田レンコン」
シンプルに焼き上げただけなのに、驚くほどの甘みとシャキシャキ感。素材のポテンシャルの高さを存分に味わえます。
【強肴】黒毛和牛A5ランク 雌牛ランプ芯の炭火焼き
見事な火入れの牛肉。赤身の旨味が凝縮されたランプ芯は、柔らかくジューシー。
【リゾット】そばの実とトリュフ
お米を使わず、蕎麦の実のプチプチとした食感を楽しむリゾット。ポルチーニ茸の出汁とトリュフの官能的な香りがたまりません。
【揚物】子持ち小鮎の蕎麦粉揚げ
琵琶湖産の貴重な子持ち小鮎を、香ばしい蕎麦粉の衣で。鮎のほろ苦さと卵の食感が楽しい一品。
【蕎麦③】手挽き蕎麦 島根・三瓶在来
真骨頂の三杯目。店主が2時間かけて手で石臼を回して挽くという、島根の在来種を使った粗挽き蕎麦。口に含んだ瞬間に広がる、栗のような甘みと穀物の力強い香りは圧巻の一言です。
【水菓子・小菓子】
島根産の瑞々しい梨と、長崎堂さんの美しい「クリスタルボンボン」で締め。
●ペアリングのお酒たち
女将さんセレクトのお酒も素晴らしく、料理との見事なペアリングを楽しめました。
(惣誉、作、綾花、横山五十、竹葉、日置桜、大嶺、ちえびじん、蕎麦ウイスキーEDDU)
●総評
店主の蕎麦への深い知識と探究心、それを支える確かな技術。そして女将さんの穏やかで心地よいおもてなし。
「熟成」と「フレッシュ」、「細切り」と「平打ち」など、様々な角度から蕎麦の魅力を最大限に引き出すコース構成は、もはやエンターテインメントの域です。料理、お酒、空間、そのすべてに一切の妥協がなく、最高の時間を過ごすことができました。
蕎麦好きはもちろん、日本の食文化の奥深さに触れたい全ての方に、心からお勧めしたい名店です。
美味しかったです♫
ごちそうさまでした。