
パリで日本人として初めてミシュラン三つ星を獲得した小林圭氏。その小林氏が監修するレストランが、日本に増え始めている。店によって系列が異なり、御殿場のMaison Kei(メゾン ケイ)は、小林氏と和菓子の「とらや」のコラボレーションによるものだ。
僕は数年前にパリに訪れた際に、パリの本店の予約が取れなかったので、本店に一番味が近いと言われる御殿場店に訪れることにした。御殿場は期待に応える素晴らしい店だった。
東京から電車で訪れるのは難しく、我々はクルマで昼食に訪れたので、ワインは飲まなかった。給仕の話では、ワインを飲みたかったら、御殿場のアウトレット モールまでバスで訪れて、そこからタクシーで店まで来ることもできるとのこと。
交通が不便な代わりに眺めは良く、木の生い茂る庭が有るし、天気が良ければ富士山も眺められる。
先ずは4種のフィンガー フード。夏だけか一年中なのか聞きそびれたが、少し甘いソルベが夏の食事の導入部として嬉しい。
ガスパチョは何気ない感じだが、色々な素材が入っており、複雑な味わいだ。微かな苦味とメロンに起因する甘みに加えて、酸味も有る。てっきりグリーン トマトが入っているのかと思い、給仕に聞いてみたが、そうではなく、紫蘇やバジルが入っているのでそう感じたのではとの答え。
本店で定番の野菜のサラダ。写真は良く見るものの、食べるまで味が想像できなかった。レモンから作った泡が載っており、それを野菜とかき混ぜてから食べる。先ず野菜に力が有る。レモンの泡が、味と食感の両方に変化を与えている。鮪みたいな食感の素材が有ったので給仕に聞いてみたら、鱒とのこと。素材の力、そして味と食感の複雑さが生み出す逸品だ。
馬肉のタルタル。もちろん臭みは全くない。馬肉はネットリとした食感で、周りを覆うパイは、とても軽い食感。見事な対比だ。
魚と肉は複数から選べた。僕が選んだ鮎は出色だった。日本人のフランス料理シェフは、鮎に胡瓜などの瓜系の味を合わせる人が多いが、この店はその選択肢は取らない。肝から作ったソースが鮎の周りを覆うのは、しばしば見られる手法だが、この店のソースは平凡な店を遥かに凌駕する深みの有るものだ。サマー トリュフの香りも効果的。
肉は鳩を選んだ。素材と火入れはもちろん素晴らしいが、肉汁と味噌を使ったソースに驚いた。味噌の主張は控えめで、味に円やかさを加えることに徹している。フランス料理店の主菜は肉をシンプルに焼いたものが多いが、この店は独自の変化を付け、かつ高い完成度で纏めている。本店でも味噌は良く使うそうだ。
アヴァン デセールは、柔らかいフロマージュでベリー系の果物を包んだもの。オリーブ オイルが味に変化を与えている。食事の続きからデセールへの導入部にもなるような品だ。
デセールはパッション フルーツとメレンゲ。強い酸味と儚い食感の組み合わせ。「とらや」の餡が変化を加えているが、奇を衒った感じはせず、自然な組み合わせとなっている。
この店のシェフは、パリの本店で数年間スーシェフを務めた日本人で、小林氏も時々味見に訪れるそうだ。
どの皿も、様々な食材と味が組み合わされ、味わいが複雑ながら完成されている。和食の素材を取り入れているのが日本人ならではが、元となるフランス料理の腕が極めて高く、その上で和食の素材も取り入れている。素晴らしい料理だった。