【 台湾茶藝と、ロシュフォールの恋人たち 】 台湾への渡航歴が何度もあるので、なんとなくだが台湾茶の味や飲み方は知っているつもりだが、実際のところそれは客先で出されるざっくりとした入れ方だったり、茶芸館で友達がいれてくれたりしたので、正しい注ぎ方、というものは微妙に曖昧である。 なるほど、中国茶などは最初の茶葉が開いた時点で最初のお茶は捨ててしまったりもするが、台湾茶ではそのようなことはしないのは、茶の質が良いから、なのかもしれない。丁寧に、入れ方をオーナーが教えてくれた。 伊根の舟屋そのままのカフェ。そのロケーションが台湾茶にぴったりであるのは、お茶を飲む時間がコーヒーや紅茶よりも圧倒的に長いからである。ポット一本分(1Lぐらいある)を、1時間ぐらいかけて楽しむことができるのが、台湾茶のいいところだ。 なんともセンスの良い、茶藝館である。あまり手を入れていないところがいい。舟屋の倉庫なので喫水に近く、海をダイレクトに感じることができる。とても静かで、うみねこの声がたまに響く借景は、誠に得難い美しさである。 お茶の味は好みを伝えて出してもらうスタイルで、メニューなどは無い。ので、すっきりしたお茶がいいとか、発酵したやつがいいとか、高山のお茶がいいだとか、大まかに言って出してもらうことになる。 たぶん、だいたい一人千円くらいの感覚だと思う。ポット1杯あるから、1時間くらいは普通にかかる想定で、お店に出かけるべきである。 よく台湾人の友達がお茶を飲みに山まで出かけて、そこで打ち合わせをしていた。切り立つ山の崖から緑の山を眺め、お茶を楽しみながらゆっくりとした時間を過ごす。実に、豊かな打ち合わせである。 そういう空気感がこのお店にはちゃんとあるので、とても素晴らしい。もしかすると喫茶店のコーヒー感覚で訪れてしまうと、なんだか高いし、いまいちと思うのかもしれない。台湾のお茶は、ゆっくりと時間をかけて飲むものです。 マティーニグラスが添えられているのは、香りを楽しむため。最初にグラスに入れてその、残香の変化を楽しむという趣向。時間が経つにつれてそれは青さから甘さに変化してゆくという実に繊細なプレゼンテーションで、そういうのは台湾で私はみたことがない。面白いと思う。 聞けば店主は茶葉の輸入販売をしているそうで、現地の生産者と直接会って、現物を見て仕入れているそうである。とにかく、台湾のお茶の文化は我々の文化と違って、それはそれでまた深いものがあるので、そう言った文化に触れるのが好きな人にはうってつけであろう。 ただただ、静かな時間が流れていく。そう言ったまるで無で空白の時間の経過を次第に軽くなってゆくお茶の味が刻んでいく。精神的デトックスには最適な静かなカフェの時間は、カフェになんら高まりを感じない私ですら愛おしいと思う。 とにかく絵になる眺めである。そういえばこの形のソファ、先日見た映画「ロシュフォールの恋人たち」でカトリーヌドヌーヴが実に、格好良く座っていたので、是非女性の方は彼女のようにカッコよく、座ってみてください。