【 うちの旦那が可愛い、可愛いっていうの 】 その牛肉は口に入れた瞬間にはっ、とするほど鮮烈である、それは牛のテロワと言っていい。 阿蘇の火口から九重までの美しく、広々とした草原地帯に放牧される穏やかな顔をした赤牛。いかにも健康的に草を食む愛らしい姿。ああ、牛肉ってこんなにも鮮やかで豊かな味だったんだ、と思う。とにかくそれは、美しい九重の景色が目の前に広がる味であることに間違いはない。 赤牛の対黒毛和牛のデータがある。水分量やタンパク質は1.2倍、しかし脂肪は0.4倍と圧倒的に健康的だ。レチノール、βカロチン、ビタミンEも圧倒的に多く含む牛で、それらは放牧期間が長ければ長いほど顕著になるらしい。それは決して黒毛和牛との優劣ではなく、赤牛は穀物を与えると脂肪過多になり不味くなるそうで、この牛自体が放牧にもともと向いているのだそうだ。 健康な肉の、瑞々しさ。おっさんが若くて健康な女を連れて歩きたいのは、すでに生き物として劣勢である自分を肯定したいからである。赤牛の、その肉本来の旨味というのは、ある種の人生の肯定なのかもしれない。”健康である肉”という事実が目の前に突きつけられる味。それが赤牛だ。 阿蘇のあか牛は毎日、放牧地で30~40kgの野草・牧草を食べ、3~6km歩くそうだ。大自然の中でよく歩き、牧草を食べて育つため、おいしい赤身の肉と適度な霜降りとなるそうである。 「本当に、あまりに清涼なお肉の味にびっくりしました、グラスフェッドビーフなんですね。」 「うちの旦那がね、この近くで毎日、かわいい、かわいい。って言って育てている牛なんです」 そのお店は産山、という山間にあって、かなり大きな古民家を美しく仕立てたお店である。これはまさに完全なるファームトゥテーブルであり、その肉とともに、現代における食文化の最先端の部類に入ってくるレストランである。意図してそうなったわけではなく、ただ正しいことを正しく行った結果なのであろう。そして都会では絶対に得ることができない空気と水がここにはあり、それらが全てを育んでいるのだ。 健康であること。生産者の顔が見えること。生産者の実直さが表れていること。そこに、嘘が一つもないこと。 ”自家牧場で育てたあか牛のステーキと焼肉、里山の山菜料理、自家製のお漬物が楽しめるお食事処です。お食事に出すお米、野菜、お肉、水に至るまで、自家製または産山村内で採れた食材を使用し、季節に応じてこしらえるお漬物は20種類を超えます。昔ながらのおはぎも食後にお楽しみいただけます。近くの湧水、池山水源の名水を使ったコーヒーセットもございます。” あの、美しい湧き水のような。溢れ出る清涼な味わいの肉の余韻がこれを書いている間もまだ、私の中に残っている。あのような肉が存在する。私は”世界一のステーキ”を出すスペインの、ホセゴードン氏が大切に牛を育てているボデガ・エル・カプリッチョに想いを馳せる。ホセゴードン氏はすべての牛に名前をつけて飼う。食肉用の牛に、である。それらの最も長い飼育期間は12年などと、驚くほど長期だ。だから、あのレストランのステーキは世界一、なのだ。 九重にもそんな、美味い肉が出てくる凄いレストランがあった。
写真と本文をすべて表示阿蘇郡産山村にある和食のお店
禁煙
クレカ・PayPay決済可
ランチ営業あり
おひとり様OK























