紡ぐ歴史に冴える手業 @茅場町
茅場町の街角に佇む、風格ある木造の一軒家。
昭和26年創業、75年の歴史を重ねた老舗割烹だ。
初代が日本橋で開いた喫茶店を起源とし、この地に移って天ぷら屋として歩み始めたという。
証券街らしく、天ぷらの「揚がる」は株価の「上がる」に通じる縁起物。
金融マンたちに親しまれながら、三代にわたって暖簾を守ってきた。
木曽から檜を取り寄せて増築したという建物には、長い年月を経た木造建築ならではの風情が漂う。
店内には古建築を描いたアートや、かつての店構えを写した古い写真。
折りたたみ式の碁盤に貼られたお品書きも、何とも粋な趣向だ。
眺めているだけで楽しくなる。
吉田類の『酒場放浪記』にも登場した名店。
現在は京都で修業を積んだ三代目が厨房に立つ。
眼光鋭く、いかにも職人気質を感じさせる大将。
対照的に、女将の柔らかな接客が店内に温もりを添える。
この緩急が心地よい。
さてさて、
◆刺身盛り合わせ
◆里芋煮
◆鱧の湯引き
◆揚げ出し豆腐
◆鱧の天ぷら
◆穴子の白焼き
◆お新香
どの料理にも丁寧な下拵えが感じられる。
素材の持ち味を引き出す加減、煮る、揚げる、焼く、それぞれに行き届いた仕事。
華美な演出に頼らず、積み重ねた技で味わわせる。
まさに、いぶし銀の手業だ。
料理を楽しみながら、ふと店内を見渡す。
古い写真の中にあった店が、今もこうして人を迎え、同じ場所で料理を供している。
建物も、料理も、人も。
それぞれが時を重ね、自然に一つの風景になっている。
茅場町の真ん中で、少しばかり時間を旅した夜だった。