
もはや暑さで仕事をする気もなく、新宿三丁目をさまよっていた時、ふと見かけた立ち飲み屋。ふだん、こういう新しい日本酒バル的な店は、カフェ店員みたいな若い店主のにわか日本酒ウンチクがムカつくのでなるべく敬遠してるが、なぜかこの日は惹きつけられるものがあり、入ってしまった。暑すぎてこれ以上歩きたくなかったせいもあるだろう。
こちらは、奈良の美吉野醸造という蔵の酒のみを出す店。蔵のアンテナショップではなく、目の前のビルで営んでいる酵素風呂の店で使うおが屑を仕入れるために吉野に通ううち、蔵元と知り合い、その酒に惚れ込んだという。
メインブランドは「花巴」。トラディショナルな醸し方である山廃(やまはい)をベースとし、さらに日本酒のルーツと言われる水酛(みずもと)仕込みもあるという。おそらく獺祭のようなスッキリ系とは真反対の、しかも結構なクセがありそうな酒が数十種類もあるという。これは期待が高まる。
とはいえ、この暑さ。まずは赤星で喉を潤す。つまみはお任せ六品盛り。奇をてらわぬ田舎惣菜ばかりで好感が持てた。
さあ、一杯目はあえてこの蔵では亜流の速醸酛を使ったにごり。本来、自然の発酵に任せるべきところを乳酸を添加して合理的かつスピーディーに醸造しようと導入された速醸酛はある意味手抜きの象徴なので(とはもちろん一概には言えないが)なのでわざわざアピールする蔵はないが、この蔵に関していえば逆に珍しいこと。わざわざ「速醸」って書いてあるラベル、初めて見たわ〜。
続いては、いよいよ水酛の純米 無濾過生原酒。純米で無濾過生原酒ということは、車で言えばフルチューンのスポーツカー。パンチがある分乗りこなすのは大変だが……意外とあっさり。だが、コクとパンチは十分ある。つまり、しっかり味のバランスが取れているということ。私は素人だか、なかなかの作り手だろうということは想像できる。
花巴、ヤバイ。
あとは勧められるまま、あれもこれもと飲み続けてすっかり酩酊。ラベルの写真を載せておくので、興味のある人は適当にチェックしてほしい。
通常はお猪口一杯売り。お燗は一合売り。
つまみも色々取り揃えている。
隣り合わせた女性や、在日外国人とも盛り上がり、久々に楽しい時間を過ごせた。
何より、店の店長、スタッフさんがみな詳しい。同じ蔵の酒だけを出しているだけあって、かなり深掘りして学んでいる。店長などは元美容師で、この花巴を知るまでは、ほとんど日本酒について知らなかったという。だけど、一見、日本酒店長歴十数年のベテランのような博識ぶりだ。
いろんな蔵をあれこれ飲み比べなくても、しっかりした作りの酒をとことん深掘りすれば、結果的に日本酒自体の知識も深まるのだ。
勉強になるからとさして知識もないのにあれこれ飲み散らかしていたこれまでの自分に反省である。