年末、十二月三十日、夜八時少し前。馴染みの店へ向かう途中、気まぐれにふと立ち寄る。 京急子安駅近くの「開かずの踏切」。過去に何度も行く手を阻阻み、訪問を断念する原因となっていたその踏切が、今夜に限って開いていた。 運命かもしれない――そう思い、これまでずっと課題にしていたこの町中華についに足を踏み入れた。 店内は年季の入った空間。ご夫婦で切り盛りしている様子に、長年地域で愛されてきた風情を感じる。昭和の面影を残すその雰囲気が、期待を膨らませる。 メニューを手に取る。はじめての町中華では、回鍋肉定食か麻婆豆腐定食で味の傾向を見るのがやまさん流。 ―結果、麻婆豆腐定食とウーロン杯の注文を済ませると、すぐに枝豆の小皿が運ばれてきた。酒を頼むとアテが一品ついてくる、驚くほど濃いウーロンハイ。既にこの時点でこの店の流儀。 調理を待つ間、店内には中華鍋を振る音がリズミカルに響く。その合間に聞こえる踏切の音が、妙に心地よい。 待つことしばし、麻婆豆腐が運ばれてきた。だが、それだけではない。熱々の肉野菜炒めまでも添えられているではないか。一見客の私ひとりのために作り置きをせず、手間を惜しまない姿勢に感服。 麻婆豆腐を口に運ぶと、オレンジ色のソースに包まれたその味は、今どきの四川風とは一線を画す。辛さと甘さが絶妙に調和し、どこか懐かしい。子供の頃、家庭で食べたあの○美屋の家庭的な麻婆豆腐をプロの技で再現したような、優しく、しっかりとした味わい。 食事を終え、会計を済ませて外に出る。なんということだろうか、再び「開かずの踏切」が開いている。これ以上ない、締めくくりに、新年への期待が膨らむ。 昭和の香りを今に伝えるこの町中華。偶然の訪問が、新たな思い出を生んだ夜。
写真と本文をすべて表示昭和の面影に包まれる、懐かしさと温かさ溢れる町中華体験




