
樹々が形造る緑のトンネルを、くぐった。
あの時だったに違いない。
此処とは違う何処かに、迷い込んでしまったのだ。
見沼の、森と宅地がせめぎ合う一帯。
そこに、1940年代のフランスブルターニュ地方を想わせる建物が、忽然と姿を現す。
「Cafe de lafet」の看板の下に、重厚な扉。
中に入ると、吹き抜けと、階段と、高窓。
二階は、「モンマガザン」という名前のセレクトショップ。
一階が、目指すカフェだ。
見事に構成された、隙のない、アンティークな空間。
緑のトンネルをくぐってからここまで、何処にも人影を見ていない。
しかしながら、その時まで、何ら違和感を抱くことはなかった。
出迎えてくれた、カフェの主と対面するまでは……。
カフェの奥から出て来たのは、1メートルほどの身長のウサギ達だった。
服を着て、二足歩行している。
オーナーがラフェット氏で、奥さんはアグネス。
控えているのは、長女のアリス、次女のドミニク、そして長男のラファエルとのこと。
他にも沢山のウサギ、そしてヒツジやロバが、店内空間を埋めている。
私は、平静を装い、メニューを拝見する。
此方のカフェでは、ガレットをいただくことができる。
「ブルターニュですからな」と、ラフェット氏は自慢げだ。
「チーズ+ロシア産天然紅鮭サーモンのガレット」セット1,590円(外税)。
セットには、本日のスープ、サラダ、そしてドリップ珈琲or紅茶が付く。
更に、「リンゴのシブースト」セット+390円(単品500円)を付けていただくことにした。
器には、「CAFE de LAFET」の文字が入っている。
器を載せるカッティングボードまで此方の手作り。
販売もされているようだ。
本日のスープはクリーム。
サラダは、別の器に入ってくる酸味のあるドレッシングが美味しい。
ガレットには、レタス、トマト、ピクルス、そしてレモンが添えてある。
素材の良さが伝わる健全な味わいだ。
そして、「リンゴのシブースト」と「ドリップ珈琲」。
シブーストは、カッティングボードの中央に鎮座し、ホイップクリームが寄り添っている。
カッティングボードの右奥には、卵を抱えた小さなウサギ。
ウサギを含めた全体に、シュガーパウダーの雪が積っている。
左手前の空き地にも、ウサギ型の空き地を残し、白雪が積もっている。
その素晴らしい光景に、心震える。
シブーストは、確りと濃厚で、珈琲に良く合っている。
ラフェット氏は、元店舗デザイナー。
コンセプトを形にするのに、三年。
内装に、半年。
そして、2014年11月6日に、このお店をオープンさせた。
ラフェット氏は、ここは教会だと言って、長い耳を立てる。
先程は、「アベマリア」が流れていた。
そして今は、バイオリンによる「主よ御許に近づかん」。
外からもたらされる穏やかな光。
弦を震わす音とともに、ゆったりとした時が流れている。
この曲が終わったら店を出て、元の世界へ帰ろう。
席を立とうとした瞬間、「アメイジンググレイス」の清らかな歌声が聞こえてきた。
これは、抗えない。
あと、もう一曲だけ、此処にとどまろう。