【蔵出しインドシリーズ-3/このカトゥリの数をご覧ください!】
ムンバイに着いた日は土曜日で、換金所がすべて閉まっていて手持ちのルピーは千円ほど、いやでも千円もあれば大丈夫だろうとタカをくくって意気揚々とランチに訪れた。そしてメニューボードの金額見たら、なんとお金が足りなかった。嘘お!
困った。カードももちろん使えない。そしてメニューはターリー(定食)のみ。困っていたら若いお兄さんが話しかけて来た。「お金足りないの?オーケー、大丈夫。とりあえずそこへ座って。」ここはインド。どこまでも疑っても足りないほどの危険な街。「いや、本当にお金ないよ」と、言い終わらないうちにターリー皿が置かれ、次々と色とりどりのソースが引かれていく。「これはミント、これは甘いもの、インドでは甘いものを先に食べるんだ、これは辛いソース」と、その彼も目の前に座って食べ始めた。いや、君、誰なのー!お店の人間が他の人と一緒に食べるとかあんのー?!と疑心暗着だけど、もうしょうがない。レストラン自体は有名店だし、ちゃんとしているだろうし、なんかわからんけど腹を括って、尻をムズムズさせながら食べることにしよう。
こちらは創業1945年という老舗の、グジャラートスタイルのベジターリーレストラン。Time誌のムンバイのベストターリーに選ばれ、トリップアドバイザーでもローカルフードで2位(1位はちょっと別枠のレーティングなので実質トップ)という、トップに君臨するレストランである。
いったい何種類出てくるんだろう。「これはなになに、これはナニナニ」と説明してくれる謎のお兄さん。およそ30種類くらいは出てくるよ、とのこと。アレヨアレヨというまに私のターリーは色とりどりの、甘くて、辛くて、酸っぱくて、塩辛くて、ナチュラルだったりコクがあったり、本当に様々な料理とソースで埋め尽くされた。「き、君はここのオーナーなのかい?」と聞くと「いや。」と言う。違うのか!でもお店の人と会話している感じ、オーナーではないけどそれなりに偉いのか、、訳がわからない。こんなことならヒンドゥ語を勉強しておけばよかった、学校の第二外国語の選択で。
それにしても。なんと言う旨さだろうか。これだけの種類がそれぞれ違う味で、素材は野菜とギーと、スパイスと水だけだ。なんという皿の上の大宇宙!「おおおおお、、これぞターリー、、」と私はつぶやいた。目の前の謎の兄やんは、ニコリと笑みを浮かべて、「そう、これこそがグジャラートのターリーだ」と言った。
こうして、この銀盆の上にてコースが進んでいくのである。おかわりも自由で、気に入ったものはいくらでも継ぎ足してくれる。ある程度食べ進めるとまた違うものが乗せられる。まるで無限に続くかのような素晴らしい料理の数々。
「じゃあ、僕はもう食べたから、ゆっくりしてってよ」と、早々に彼は席を立って何処かへ行ってしまった。ホールでもなければキッチンスタッフでもない。相変わらず何者かは解らない。インドで無銭飲食。なんと誇らしいことであろうか。(誇らしくない)兎にも角にも、あるものしか払えぬし、足りない分は後払いしかないのである。
最後にライスをもらい綺麗にターリーを食べ終えた。圧倒されるほどの感動的な料理だった。そして長年食べたくて待ちに待った本物のベジタリアンターリーであった。およそ15年前、グジャラート州でランチに食べ感動したベジターリーそのままに、体が震えるほどの、感動。
私は満足し、恐る恐る席を立つ。そして番台のようなキャッシャーへと向かった。「お金が足りないんだけど、、、」と言うよりも早く、どん!とでっかい出席簿のようなノートが出て来て、そこにお代が書き込まれ、「ユアネーム。」とペンを渡された。
人生初めてのツケ払い、まさかそれをインドで!しかもこのオールドタウンで!どこからどう見ても旅行者の私に、ツケ払いを許すその懐の深さ。こんなの私の知ってるインドじゃない、、、、OH MY カアリイ!(カーリーとはパールバティとも呼ばれる最強の女神で、ダンナのシヴァ神も敵わないレベルの、血と殺戮を好む美女神です)
ものすごい感動して名前を書き込み、明日換金してすぐくるから!と約束し、店を後にした。インド人がびっくりするよりもびっくりである。翌日、開店直後に駆けつけ”昨日は本当にありがとう”と一括返済、そこに昨日の兄やんはいなかった。店の外に出れば相変わらずのカオスで、上半身裸のサドゥが、長く束ねた自分の髪を太った腹に太鼓のように打ち付けている。目が合った瞬間”金をくれ”と言われた、ここはそんな街である。 #ベジタリアンターリーこそがインド料理の王である!