
『2017年 タベアルキスト和久井の印象に残ったこの10軒』
9軒目
昭和9年創業の鮎の専門料理店。
日本有数の清流として知られる高津川の流れの間近に立つこの店は、創業から極上の天然鮎料理を出すお店として全国の鮎好きの方に知られている。
もともと旅館として創業しており、贅をつくした室内には国有林の木材を用い、欄間は京都から取り寄せるなど繊細な細工が施され、歴史を感じられる落ち着いた風情がある。
鮎の質を落とさないよう鮎の釣り人を約200人契約して確保していることにも、鮎料理の名門としてのプライドが感じられる。
料理は厳選された高津川産天然鮎だけを使用したコースで、鮎の塩焼きやうるかなどのほか、新鮮な鮎だからこそ味わえる背ごしなど。
背ごしは薄く筒切りにし供される。
生の甘い鮎の身とさっくり柔らかな骨の感触を山葵で味わう。
口に含んだ瞬間に鮎の香りと身の甘みが口中に広がり、余韻が長く続く。
またゴリゴリとした食感は背ごしならでは。
清汁仕立ては焼いた鮎を椀種にした香り豊かなお椀。
すだちを搾った素朴な出汁が天然鮎の味を引き立てる。
あっさりしながらも深みがある上品な味わいで、焼いた鮎から出る香ばしさによって食欲をさらにそそる。
塩焼きは鮎の良さが一番わかる料理。
急流で成長した天然鮎は顔がとがり、ひれも立派で姿が美しい。
新鮮な鮎を生きたまま串刺しにし、表面はパリッと中はふっくらと焼き上げている。
遠火でじっくり焼かれた鮎は、頭からかぶりついても硬さは感じず、骨からも旨みが引き出されている。
そして香りが素晴らしく慈味に満ちている。
いい鮎は焼いている最中からよい香りがするという。
鮎めしは鮎特有の旨さが米の中まで染み込みこんだ逸品。
食べる時に箸でほぐし、ご飯に混ぜ込む。
中骨を抜いてあるので、小骨を気にせず熱いうにち食べることができる。