50年ちょっと生きてきただけだが、そこそこ人並みの体験は積んできたと自負している。学校を卒業して、就職して。夜学にも行った、結婚もした。子どもも生まれ移住して、子どもは巣立ちという程度のごく普通だがひと通りのことは体験してきた。未体験なことは、死ぬことと刑務所に入ることくらいだろうか。 死ぬことはいずれなんとかなるからさておく。問題は刑務所に入ることがそのものが希望(?)なのだ。 なんで、そんなことを言い出したかというと、花輪和一「刑務所の中」の影響に他ならない。花輪和一とは極めて特殊な作品を描く漫画家だ。おどろおどろしくグロテスクな怪奇漫画を主とする。"怪奇"と断じてよいか定かではない。かのジャンルには日野日出志や古賀新一といった作家が有名だが、彼らの作品はどこか一歩引いた、ここまでくればフィクションだよな。と感じられるのに対し、花輪はどこかおかしなお前は絶対に向こう側のヤツだよな、と思わされる独特な世界観を持つ作家である。 そんなマイナー、いやアンダーグラウンドな作家が唯一メジャーに認められた作品が「刑務所の中」なのだ。拳銃所持で逮捕された彼が懲役刑を受け、2年間の受刑生活を描いた作品である。内容はといえばものの見事にどうという事がない。刑務所での生活が淡々と語られる。刑務所の日課、作業はどういったものか、ただそれだけである。どんな罪を犯し、償っているか。待遇改善!なんてことはカケラもない。 私が気になるのは刑務所の食事だ。いわゆるくさい飯というものだが、これがなんとも美味そうなのだ。実際にはすごい薄味だし、麦飯ほど不味いものはない。と訊くが、花輪の語り口のためなのか一度でいいから食べてみたいと思わされる。 メニューでもっとも熱く語られるのが甘いものだ。日常的に薄味で、甘味などほとんどない生活だから、だれもが甘さに飢えているのだという。粒餡にマーガリン、フルーツミックス缶に牛乳という薄気味悪いメニューが受刑生活史上最高のものとして扱われる、うへぇ。 一説によれば受刑者管理のためにわざと甘味を抑制しているのだとか。確認はしていないが、別の書であんこを巡って大の大人がケンカしたり、チョコレートを食べたくてたまらないヤクザの大親分さんがいたりするらしいから案外、本当のことかもしれない。 「老舗 亀まん」 南信 高遠にある和菓子屋さん、創業明治8年というから筋金入りだ。HPによれば明治時代、銭湯「亀の湯」を開業した初代が、来店客に振る舞った饅頭が評判となり専門店化したのだという。 「亀まん頭」 "亀の湯"から一字とって名づけられたこの亀まん。しっとりとした皮の中に、どしっとした密度の高いこしあんが鎮座している。よくある温泉まんじゅうあるいは蒸窯まんじゅうに似てはいるが、皮、あんこ双方の存在感が素晴らしく、他とは一線を画したものだといえる。 受刑生活はよいが、その前に入るだけの悪いことをしなければならない。私のような小心者に何ができるというのだ。という事でまっとうなカタチで刑務所に入ることなど無理だろうから、どこかで見学ツアーでもやってないか、なんとなく調査中である。
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