
L'évoは富山県利賀村にあるフランス料理店だ。地元の食材にこだわりながら、前衛的な料理を提供している。 僕は2018年に、この店がリバーリトリート雅樂倶というホテルにあった時に訪れて、強く印象に残っている。その後シェフは独立し、2020年12月に今の地に、宿泊施設を備えた料理店を開いた。 明るく開放的な空間で、テーブル クロスを使わずに、テーブルの木の素朴な感覚を打ち出しているのが現代的だ。 宿泊の予約を取るのは極めて困難なので、富山市内に宿泊して、レンタカーで昼食に訪れた。富山市内から1時間半ほど掛かり、途中で道がかなり細くなり、携帯の電波が入らないような場所(スターリンクは通じたが)もあるので、訪れるのは容易ではない。それでも外国人観光客を含め、店内は満席だった。 コースは以前からの定番と新作が程よく混在している。クルマの運転があるので、ソフトドリンクで通した。 Prologueと題されたアミューズブーシュは、ビーツやグジュールなど。ビーツは以前の店でも食べたが、微かに甘味がありつつ、食事の導入としてもよく機能している。 マリネした真鰯は、野草などと組み合わせて、複雑な味となっている。 大越中バイは、バイ貝を使った皿。以前の店でも供していたが、山羊の乳や空豆を使ったソースとの組み合わせにより、複雑さが進化している。 地元の猟師が仕留めた月の輪熊は、ふきの苦味との組み合わせで供される。女性の給仕が、私も月の輪熊を捌いたことがありますと、さらりと言う。臭みは無く食べやすくしているが、部位によっては強い弾力があり、噛み切るのに苦労した。 水蛸もかなり弾力感があるが、薄く切っており食べやすい。この店は標高700メートルの山にある。シェフは2日に一度、富山市まで魚を仕入れに行くそうだ。往復だけで3時間で、仕入れの時間も加えると半日掛かってしまう。強い覚悟でこの地を選んだのだろう。 蛍烏賊は、富山県以外では余り見られない大きさ。極めて軽い食感で揚げており、何気ない感じだが、見事な出来栄えだった。 地元の素麺が、変化球のような一皿として供される。野菜(恐らく豆系だが失念)と油のスープで、和食とは異なる着地だ。 以前からの定番の鶏。脚の骨が露骨に見えるビジュアルに引いてしまう人も居るかもしれないが、僕はこういうのは平気だ。中に米などを詰め、外側は揚げるとともに焼いている。深みのある味わいのソースが進化を感じさせる。食べ方には注意が必要だ。手で齧り付くのだが、その際に中の肉汁が飛び出してきた。服を汚さないように、ナプキンでガードした方が良い。他の店では食べられない定番があるのは強い。 桜鱒は照り焼き風の味で、それだけだと和食になってしまうが、ドライ トマトとの組み合わせで、和食とは若干異なる味わいになっている。このドライ トマトは、酸味と甘味が両立した出色の出来だった。 主菜の猪は、堅実な味だが、料金と立地を鑑みると、もう少し独創性が欲しい。 デセールの苺は、極めて薄く切って、10時間掛けて燻製にしている。膨大な手間が味に結実している。 お茶菓子も丁寧に作られており、コーヒーも美味しかった(僕はフランス料理店でコーヒーを飲むことは少ないが、この日は食後の運転の際に眠くならないようにコーヒーを選択した)。 Cuisine régionale L'évoという店名が象徴するように、シェフは富山県の食材に拘りつつ、世界で通じる前衛的な味の表現に挑んでいる。